裏千家関東学生茶道研究会とは? 活動内容とビジョンを評議員長インタビューで深掘り
裏千家関東学生茶道研究会について
裏千家関東学生茶道研究会(通称・関東裏研)は、裏千家茶道を学ぶ関東圏にある大学の茶道部・同好会を束ねる学生連合組織。1990年(平成2年)の発足以来、茶道文化の学術的探究と加盟校間の親睦を主軸に活動を重ねてきた。年間を通じて合同茶会や宗家(京都・今日庵)での研修に加え、茶碗づくり・和菓子づくりなどの体験型研究行事を実施し、「道(精神)・学(知識)・実(技能)」の三位一体で茶の湯を探究する姿勢が特色。こうした取り組みから、加盟校を越えた学生ネットワークが育ち、次世代の茶人育成と文化継承の拠点となっている。
今回は裏千家関東学生茶道研究会・評議員長の志賀俊鷹さんに、関東裏研の成り立ちや活動のモットー、さらに今年度のテーマに 「継ぐと、拓く。」を掲げる関東裏研の今後のビジョンについて深堀りしました。
研究会の概要と、どのようなモットーで活動してるか教えていただきたいです。
まあもともと、大元の団体が関西にあって、我々の団体は、関西の方に裏千家茶道研究会っていう団体があるんですけど、そちらの方が今の裏千家の大宗主が設立を提唱されて作られた団体なんですね。茶道が本当に好きな学生のためのプラットフォームを用意しよう、といった感じで作られたものが関西にあります。
その流れの派生のような感じで関東にもできたのですが、関東の方はちょっと特殊で、学生側からのアプローチというか、なんかその大宗主が提唱して作られたわけではなくて、関東圏の裏千家の学生たちが、自分たちも裏千家の人たちの中で研究し合う、交流できるところを求めて設立されたのが経緯ですね。モットーは関西と共通していて、我が国の総合文化である茶道の知識を深めるとともに、会員相互の親睦を図ることを目的とするというところが掲げられています。
関東裏研は、各大学の茶道部が連合して作られたものなのか、別軸で個々人が入会してるのか、教えて頂きたいです。
これはもう完全に部の連合に近いですね。ピラミッドで言うと裏千家の中に組み込まれている組織なので、分かりやすく言うと学生連盟が近いと思います。ただ茶道は競い合うものではないので、特に学生連盟だからといって大会を企画したりするわけではなく、合同でお茶会をしたりするといった、交流の場という認識が正しいと思います。
研究会の活動内容と年間の行事スケジュールについても伺いたいです。
活動内容は年間行事を説明すれば分かりやすいですね。基本的には一年に三回か四回くらい、体験型のイベントが行われます。だいたい和菓子作りだったり茶杓を削ったり、年によっては楽茶碗を焼いたりもします。大人数で美術館に行って学芸員の方の解説を聞きながら茶器についていろいろ学ぶこともあります。そういった内容が三か月に一回くらいのペースで行われています。
それ以外にもその合間に合同茶会だったり、コロナ禍で一旦途絶えましたが、今年度も行われる予定の京都研究が行われます。裏千家本部が京都にあるので、本流に伺って宗家のお弟子さんたちから説明を受けたりします。例えば利休さんのお墓にお参りしたり、普段入れないお寺の中に入らせていただいたり。宇治に行けば抹茶挽きの体験ができますし、下鴨で茶懐石をいただくこともあります。
参加学生の顔ぶれ的にはどういう方が多いんでしょうか? 茶道に造詣がもともとある方が入られるケースが多いのでしょうか。
バックグラウンドは多様ですね。茶道を本気で極めようとしている部長クラスの人だと自己研究に忙しい面もあって研究会にはそこまで関われないこともありますが、熱意さえあれば経験は問いません。未経験者でも参加しやすいプラットフォームを作ろうとしています。熱意が高ければ経験値や学年は問わない、というのが基本スタンスです。一年生でも四年生でも、同じ席で同じ茶をいただきながら学び合う環境を整えています。

個人として得られる成長機会について伺いたいです。
茶道の面で言えば、研究会では点前の稽古は基本的に行いません。自分の点前や心と向き合う場は、やはり各大学の部活での練習が中心です。そのため、点前など技術面については研究会で得られる成長は正直薄いかもしれません。
ただし、大学の枠を超えて学生が集まることで、各校だけではできない企画が実現できるのが私たちの強みです。集まるからこそ新しい機会が生まれ、これまで経験できなかったことや知らなかったことに触れられます。視野を広げるという点では、研究会がもたらす成長の機会は非常に大きいと考えています。
もう一つ付け加えるとすれば――私たちが組んだプログラムに参加すれば何らかの知見は得られますが、それ以上に大きいのは、まったくバックグラウンドの異なる学生たちが集まることで生まれる相互作用です。
経験者でも気づかなかったことを学べたり、未経験者から新たな発想を得られたりします。上から与えられる一方通行の学びではなく、双方向に学び合える環境が、この研究会の大きな魅力だと感じています。
研究会に対する学生ならではの視点や、運営上の課題はありますか?
まず学生視点で言うと、先ほども申し上げたように、双方向の学びによる「気づき」が非常に大きいという点があります。普段は大学の茶道部で先生から教わるのが基本ですが、裏千家の中でも先生によって教え方や内容はまったく異なります。研究会では、同じ裏千家でもまったく違う指導を受けている学生と出会うため、良い意味でも悪い意味でも強い刺激になります。一人の先生だけに習う大人の方々と違い、多様な教えに触れられる柔軟で自由な環境があるのが学生の強みだと思います。
一方、運営面では課題もあります。コロナ禍の影響が依然として尾を引いており、かつては裏千家系の大学が42校加盟していたのに、現在しっかり活動しているのは約15校にまで減少しました。コロナを機に研究会を脱退した大学や、裏千家の茶道部自体がなくなった大学もあります。コロナ禍全体が茶道界には大きな逆風であり、組織の立て直しは喫緊の課題です。
今後のビジョンを教えてください。
そうですね。今年の私たちの目標は 「継ぐと開く」 です。
茶道が広まるのは良いことですが、広がりが“薄く”なるのは望ましくありません。――たとえば抹茶ブームで、興味本位のまま技量に見合わない道具や高価な抹茶を買いそろえる人が増えています。そうした広がり方では、本来の「道」や「 同額辞す 」の精神が薄れてしまう恐れがあります。
そこで私たちは、部活とは別の立場から 茶道の面白さと根本を伝え続ける ことを自分たちの意義と考えています。まず“継ぐ”――精神や作法をしっかり受け継いだうえで、“開く”――外へ向けて深みのある形で広げる。数だけを追うのではなく、精神的な奥行きを伴った広がりを目指して活動を展開しているところです。
最後に読者へメッセージをお願いします。
そうですね。茶道の研究や同額辞すについて長々と語りましたが、結局のところ 「茶道を楽しむこと」 がいちばん大切だと考えています。私の師匠も常々 「楽しくなければ続かないし、楽しめないのなら意味がない」 とおっしゃいます。道と名が付く以上、ときには苦しさも伴うかもしれませんが、それでも楽しむ姿勢を忘れてはいけません。――私が伝えたいのはただ一つ、茶道を心から楽しんでください、ということです。

編集後記
今回の取材で強く残ったのは、「広げるために、まず深く」という姿勢です。関西で宗家の提唱により生まれた枠組みを、関東では学生自らが必要性を感じて立ち上げた――この“自発性”が、研究会の芯を成していました。点前の上達を競う場ではなく、和菓子づくりや茶杓削り、楽茶碗、京都での宗家研修、美術館での鑑賞学習といった体験を通じて、作法の背後にある文脈や礼のこころを掘り下げる。異なる指導系譜に学ぶ学生同士が交わることで、教えの差異が相対化され、双方向の気づきが生まれる——この設計は、人数よりも“密度”を重んじる研究会の哲学そのものです。
一方で、コロナ禍を境に加盟校は42校から約15校へと減少しました。これは研究会だけの問題ではなく、茶道界全体の課題でもあります。だからこそ、今年掲げる目標「継ぐと開く」は重い。精神や作法を確かに継承しつつ、表層的なブームに流されない深さで社会へ開いていく——容易ではありませんが、学生期だからこそできる挑戦でもあります。最後に代表の「楽しくなければ続かない」という言葉を置いておきたい。道は厳しくも、よろこびとともにある。楽しさを核に据えた継承と開放が、次の世代の一椀をきっと支えていくはずです。

