覆い下栽培って何?抹茶の味と品質を決める伝統の技術とは

抹茶や玉露を口にしたときの、あの上品でまろやかな甘さ。その美味しさの秘密をご存じですか?

実は、こうした高級茶の味わいを生み出しているのが「覆い下栽培(おおいしたさいばい)」という日本独自の栽培方法です。茶葉に日光をあてないように育てることで、渋みのもとを抑え、甘みや旨味を最大限に引き出すこの手法は、宇治を中心に400年以上も守り続けられてきた伝統技術でもあります。

本記事では、「覆い下栽培とは何か?」という基本から、その歴史や製法、味の違いまでを分かりやすく解説。なぜ被覆されたお茶が“別格”とされるのか、その理由がきっと見えてくるはずです。

抹茶好きの方はもちろん、日本茶をもっと深く知りたい方も、ぜひ最後までご覧ください。

世界が注目する抹茶と、その「深い味」を生み出す秘密

なぜ抹茶の味が「まろやかで甘い」のか?

世界中で愛される抹茶。そのまろやかで濃厚な味わいの秘密は、「覆い下栽培(おおいしたさいばい)」という日本独自の栽培方法にあります。

この方法は、茶葉に光をあてずに育てることで、苦みを抑え、うま味成分を最大限に引き出す栽培手法。とくに抹茶・玉露・かぶせ茶などの高級茶は、この栽培方法によって育てられた「被覆茶(ひふくちゃ)」なのです。

覆い下栽培が広げる日本茶文化の可能性

ただ美味しいだけでなく、覆い下栽培は茶の香り、色合い、風味すべてに影響を与えます。日本が誇る茶文化を支えてきた伝統技術を知ることは、日々の一杯をより深く味わうきっかけになるでしょう。

覆い下栽培とは?茶葉に日光を遮って育てる伝統手法

茶葉の甘さと旨味を引き出す工夫

覆い下栽培(おおいしたさいばい)とは、茶葉の収穫前に一定期間、茶畑を覆って日光を遮る栽培方法です。主に4月以降に新芽が出る時期から始まり、「よしず(葦簀)」「わら」「黒い寒冷紗(かんれいしゃ)」などの素材で茶園をすっぽりと覆い、遮光環境の中でゆっくりと育てていきます。

なぜ遮光するのかというと、光合成を制限することで、茶葉の中のうま味成分=アミノ酸(特にテアニン)を保つためです。日光を浴びすぎるとテアニンは渋みの元となるカテキンに変化してしまいますが、覆いをすることでこの変化を抑え、甘みが強く、まろやかな風味の茶葉に仕上がります。

さらに、少ない光でも光合成を行おうとする茶葉は、薄く・大きく葉を広げ、クロロフィル(葉緑素)を多く蓄えるため、色もより鮮やかな濃緑色になります。見た目も風味も上質な高級茶にふさわしい仕上がりになるのが、覆い下栽培の大きな魅力です。

覆い下栽培によって得られるメリット
・テアニンが豊富で甘くまろやかな味
・渋みや苦みが少ない
・色鮮やかな濃い緑
・独特な「覆い香」が生まれる

被覆茶と露天栽培の違い

下記の表は、日光の当たり方と味の違い、お茶の種類の関係をまとめたものです。

栽培方法日光の当たり方味の特徴主なお茶の種類
被覆栽培(覆い下栽培)遮光して育てる甘み・旨味が強くまろやか抹茶、玉露、かぶせ茶
露天栽培(露地栽培)日光を浴びて育つ渋み・爽やかさがある煎茶、番茶、ほうじ茶

このように、被覆栽培と露天栽培は根本的に味づくりの方向性が異なります。特に覆い下栽培で生まれる「覆い香(おおいか)」と呼ばれる、海苔のような香りは、抹茶や玉露ならではの風味の決め手。これこそが、世界中の茶愛好家を魅了する理由のひとつなのです。

宇治から始まった伝統が400年続く理由

この栽培方法は、16世紀末の京都・宇治で誕生したとされる伝統農法です。最初は晩霜から新芽を守るための工夫として、茶畑に藁をかぶせていたのが始まりでした。しかしその後、覆いの有無で明らかに風味や色に差が出ることが分かり、高級茶葉を生む技法として体系化されていきました。

特に宇治では、「簀の下十日、藁下十日」と言われるように、段階的に日光を遮る“二段階の被覆”を行い、旨味をじっくりと葉に蓄積させる手法が根付いています。この細やかな作業は、経験と勘、そして光の感覚を読む茶農家の技術の結晶です。

覆い下栽培の歴史と発展

霜よけから始まった工夫が、味を進化させた

覆い下栽培(被覆栽培)の起源は、16世紀後半の室町時代、京都・宇治にまでさかのぼります。
当時、春先に萌芽した新芽は、霜の被害を受けることが多く、それを防ぐためにわらや葦(よし)などを用いて茶畑を覆う工夫が始まりました。

しかしその後、偶然にも覆いの下で育てられた茶葉の風味や色合いが格段に良くなることが判明。その結果、「霜よけ」から「品質向上」へと目的が変化し、やがて覆い下栽培は高級茶葉を生産するための栽培技術として定着していきました。

覆いをしたことで得られた変化
・渋みが少なく甘みが強い
・茶葉の色が濃く鮮やかに
・芳醇な香り(覆い香)が生まれた


この効果は、16世紀末に来日していたポルトガル人宣教師・ジョアン・ロドリゲスの記した『日本教会史』にも宇治茶の逸話として登場しており、当時からその品質の高さが知られていたことが分かります。

覆い下栽培が宇治茶を“将軍の茶”へと押し上げた

覆い下栽培によって生まれた芳醇な茶葉は、やがて将軍家や大名に献上される「御用茶」としても重用されるようになりました。宇治茶は、千利休などの茶人が好んだ“茶の湯”文化の中心でもあり、その品質の高さと気品ある味わいから、日本茶の最高峰としての地位を確立していきます。

江戸時代には、将軍に献上される茶を宇治から江戸へと運ぶ「お茶壺道中」という制度も確立され、宇治の覆い下茶園は国家レベルでも重要な存在となっていました。

今なお続く伝統と、変わらぬ風景

現代においても、宇治では4〜5月の新茶の季節になると、黒い寒冷紗やよしずで覆われた茶園の風景が広がります。とくに、「本簾被覆(ほんずひふく)」と呼ばれる、よしずとわらを用いた伝統的な遮光法は、手間がかかるため一部の茶園に限られますが、今も高品質な玉露や碾茶を生むために受け継がれています。

このように、覆い下栽培は単なる農法ではなく、400年以上にわたる日本の茶文化を支え続けてきた技術と歴史の象徴です。

・茶畑を覆う「黒い屋根」のような景観は、宇治ならではの初夏の風物詩
・「本簾被覆」は熟練の勘と経験で光の量を調整する、職人技の極み

覆い方の種類と製法の違い

1. 棚がけ被覆:高品質茶の主流手法

棚がけ被覆」は、棚状の骨組みの上に寒冷紗やよしず、わらなどを被せる方法。特に本簾(ほんず)被覆は、宇治の伝統的な技法で、最高級の玉露や碾茶に使われます。

  • 本簾被覆の特徴
    • 日光量の調整が繊細にできる
    • 茶葉に独特の“覆い香”が加わる
    • 雨音や藁の香りが茶葉に移り、風味が複雑に

2. 直がけ被覆:効率重視の被覆方法

直がけ被覆」は、茶株に直接寒冷紗をかぶせるシンプルな方法。近年は省力化の観点から、直がけ方式が多くの茶園で採用されています。

被覆栽培で作られる高級茶の種類

かぶせ茶:煎茶と玉露のいいとこ取り

  • 被覆期間:7〜14日程度
  • 特徴:程よい渋みと旨味のバランス
  • 主産地:三重県(伊勢、鈴鹿など)

かぶせ茶は、手軽に楽しめる高品質茶として人気。飲み方次第で味の変化を楽しめます。

玉露:抹茶にも劣らぬ極上の甘み

  • 被覆期間:20〜30日間
  • 主産地:京都・福岡(宇治・八女など)
  • 特徴:濃厚な甘みと深いコク、香り高さ

玉露は、煎茶の約4倍の価格になることもあり、贈答用としても人気です。

碾茶(てんちゃ)・抹茶:茶道を支える主役

  • 特徴:揉まずに乾燥させる「散茶製法」
  • 抹茶は碾茶を茶臼で粉砕したもの

被覆栽培で育てられた碾茶が、抹茶の原料になります。色、香り、甘さ、すべてが格別です。

覆い下栽培で得られる3つの味覚メリット

茶の味・香り・色が“別格”になる理由

覆い下栽培(被覆栽培)は、単なる「日陰栽培」ではありません。光合成をコントロールすることによって、茶葉の旨味・香り・色合いのすべてに劇的な変化をもたらす、味づくりの技術です。

特に次の3つの点において、覆い下栽培の茶葉は一般的な露天栽培と比べてはっきりとした違いが現れます。

1. 甘み・旨味が圧倒的に強い

被覆することで、茶葉に含まれるアミノ酸(特にテアニン)の分解が抑えられます。通常、日光を浴びた茶葉はテアニンが渋みのもとであるカテキンに変化してしまいますが、遮光環境ではこの変化が抑制され、テアニンがそのまま保持されます。

そのため、舌の上でやさしく広がる上品な甘さと、コクのある深い旨味がしっかりと感じられるのです。

2. 覆い香(おおいか)が生まれる

覆い下栽培のもうひとつの特徴は、独特の香り「覆い香(おおいか)」です。これは、ジメチルスルフィドという香気成分によって生まれるもので、焼き海苔や昆布のような深みのある香りが特徴です。

この香りは、被覆された環境下でのみ発生するもので、露天栽培では得られません。とくに抹茶や玉露を飲んだ際にふわっと鼻を抜けるこの香りが、高級茶ならではの風格を演出してくれます。

3. 色合いが鮮やかで濃い緑に

日光を遮ると、茶葉は少ない光でも光合成しようとし、葉緑素(クロロフィル)をたくさん生成します。これにより、茶葉は鮮やかで深い緑色に変化します。

この発色は、見た目にも品質の良さを印象づける要素であり、抹茶や玉露の「美しいグリーン」はまさに覆い下栽培の恩恵です。

高品質な被覆茶を選ぶポイント

1. 原産地・加工地の確認

  • 宇治、八女、知覧などの銘産地であるかどうか
  • 加工地も国内であることが安心の目安

2. 認証マークの有無

  • 有機JAS、GI認証、地理的表示などがある商品を選びましょう

3. 見た目・香り・舌触りをチェック

  • 色が深く、粉立ちが良いもの
  • 開封時に爽やかな香りが広がるもの
  • 舌にまとわりつくようななめらかさ

消費者ができる安全対策と購入のコツ

1. 正規販売店から購入する

公式ショップや信頼ある茶舗での購入が安心です。

2. 評価や口コミを確認する

実際に飲んだ人の声が品質のヒントになります。

3. 不自然に安すぎるものは避ける

本物の被覆茶は、それなりの手間がかかっているため相場より極端に安いものは要注意

4. 小分け・少量で購入する

香りや味の変化を避けるため、新鮮なうちに使い切れる量がおすすめ。

抹茶をもっと深く知りたい方へ

一杯の抹茶に秘められた甘さや旨味の背景には、覆い下栽培をはじめとする400年の伝統技術が息づいています。
でも、それはまだ抹茶の魅力の“入り口”にすぎません。

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まとめ|一杯の抹茶の奥にある、400年の技と誇り

被覆栽培(覆い下栽培)は、日本茶の魅力を極限まで引き出す伝統の栽培技術です。日光を遮るという一見シンプルな方法が、甘さ・旨味・香り・色すべてに深く影響しています。

現代では効率化が進む中でも、本簾被覆など手間を惜しまない茶農家が守り続けるこの文化。その背景にあるストーリーを知れば、あなたが手にする一杯の抹茶も、より特別な味わいとなるでしょう。

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