抹茶が中国に乗っ取られる?!データで読む勢力図と実務リスク

はじめに|記事作成の背景

ここ数年、海外での抹茶需要は右肩上がりの一方、日本国内では原料や挽砕設備のキャパシティ、気象影響などによる供給制約が続いています。小売・外食・D2C領域から「価格の上昇」「欠品リスク」「品質・表示基準の線引き」という問題が急増し、同時に「中国産が市場を席巻するのでは?」というセンセーショナルな声も目立つようになりました。

しかし、現場で起きているのは単純な「乗っ取り」ではなく、価格帯・用途・品質基準による棲み分けと、それに伴う表示・規制・調達の実務課題です。SNS上の断片情報や広告的なメッセージだけでは意思決定を誤るおそれがあるため、本レポートでは一次データと公的資料を基軸に、冷静に事実を整理します。

本稿の目的は以下の3点です。

  1. 「抹茶」の定義と品質基準(遮光栽培・加工工程など)の確認
  2. 国際サプライ動向(日本/中国ほか)の“量と価値”の実像を可視化
  3. 調達・商品開発・表示の実務リスクと対策をチェックリスト化

                       

\ こちらもあわせて読みたい! /

市場の現在地:世界的ブームと日本の供給制約

① いま何が起きている?

世界的な抹茶ブームで需要が伸びる一方、日本側は供給が追いついていない状況です。2024年の日本の緑茶(抹茶含む)輸出金額は前年比プラス25%(364億円)、数量はプラス16%と過去最高を更新しました。この加速的な抹茶ブームによって、需要超過=価格上昇という構図が強まっています。 農林水産省Reuters

② どこに売れている?

主要な伸び先は米国です。公的データを基にした報道でも「対米シェアが大きい」ことが繰り返し示され、輸出の伸びを牽引しています(年度・推計により30-50%増)。偏りがあるぶん、米国側の景気や政策の影響を受けやすいのが実務リスクとなっています。 ReutersJapan Wire by KYODO NEWS

③ 供給が増えにくい理由

猛暑で「てん茶(抹茶の原料)」の収量が弱かった年が続き、収穫が落ち込む地域も出ています。さらに新たな茶園が一人前になるまで約5年もかかるため、短期での増産が難しい構造なのです(作付け転換が進んでも即効性は限定的)。 Reuters

④ 価格はどう動いた?

京都の市場ではてん茶の競り価格が前年比プラス170%に達したとの報道も。国内有名茶舗でも購入数量の制限や価格改定などの対応が見られ、実需サイドの体感価格は確実に上がっています。 ReutersIppodo Tea Global

⑤ ニュースで見る「抹茶不足」の実感

米国西海岸では一部カフェで抹茶メニューの縮小・価格上げが相次ぎ、ローカルニュースでも特集が増加しました。専門媒体も“matcha shortage(抹茶不足)”をトピックとして扱っています。San Francisco ChronicleABC7 San FranciscoFood & Wine

中国の台頭:どこまで来ているのか

① 産地の可視化

中国では貴州省・銅仁市(江口県)が“工業的な抹茶量産拠点”として台頭。江口県はEU基準対応の標準化抹茶基地大規模単体精製工場を整備し、年加工能力1,200t規模と発表しています。 moa.gov.cn+1

② 実績ベースの規模感

公的発表・報道でも、2024年の江口県(銅仁市)での抹茶生産/販売は1,200t超産値は約3億〜3.5億元と整理されています。輸出先は北米・EU・日本など40超の市場に拡大。量産と外需対応の「地場エコシステム」が進んでいることがわかります。 english.news.cnguizhou.gov.cn

③ 中国全体:輸出数量↑・平均単価↓

2024年の中国茶輸出数量37.41万t(+1.8%)・輸出額141.9億米ドル平均輸出単価は19.8%下落の約$3.80/kgまで低下し、価格競争力が一段と強化されたことが示されています。用途が価格に敏感な外食・加工向けではインパクトが大きい数字です。 stir-tea-coffee.comTridge

④ 米国向けの動き

米国の中国茶輸入2024年通年で+19.6%。2025年は月次で見ると4月単月で対前年+30.1%、中国産“緑茶”は年初〜4月累計で+53.6%と駆け込み(前倒し)も絡みつつ高い伸びが観測されました(業界統計・専門媒体)。 firsdtea.comworldteanews.com

⑤ 示唆

低〜中価格帯のマス用途(ラテ、製菓、プレミックス)では、中国産抹茶/抹茶状粉末の浸透が進みやすい状況。一方で、遮光栽培・石臼挽き・地域ブランド(GI)など高級領域の価値文脈では、引き続き日本産の優位が残る見立てです。価格で選ばれやすい用途か、定義・官能・物語性で選ばれる用途かで戦略を分けることが重要です。

価格帯・用途別でみる勢力図

① 外食・加工(ラテ/ベーカリー/菓子)— “ロットとコスト”の勝負

  • 選ばれやすい原料:価格優位の中国産“抹茶/抹茶状粉末”や、規格統一の汎用品。
  • 重視KPI:発色安定(焼成・紫外線での退色耐性)、泡立ち/泡持ち、挽度(ダマ抑制・分散性)、ロット間の再現性、異味・異臭の少なさ。
  • 実務ポイント
    • レシピ側で固形量・糖・油脂との相性を先に規格化(pH・加熱条件も含む)。
    • 二重調達(日本×海外)で安定供給を確保、コスト上限を先に設定。
    • ISO/TR 21380の工程適合と残留農薬・重金属の証憑で“最低限の質”を確保。

② 専門店・嗜好(点前・上級グレード)— “ストーリーとブランド”の勝負

  • 選ばれやすい原料:日本産(被覆栽培・石臼挽き)、地域ブランド/GIと整合する銘柄。
  • 重視KPI:旨味、香気の厚み、きめ細かい泡、後味の透明感、ストーリー(産地・作り手・作柄)。
  • 実務ポイント
    • 官能評価プロトコル(二点比較/三点識別)を運用し、風味の再現性を守る。
    • GI・地域団体商標の適正表示、点前用途の挽度・粒度分布も明示。
    • 季節・作柄でのブレをブレンド設計やロット管理で吸収。

③ 中間帯(カフェの本格ラテ/プレミアム菓子/量販向け上位)— “ポジション”の勝負

  • 選ばれやすい原料:日中ブレンドや等級別ブレンド、日本産の安価な抹茶
  • 重視KPI:コスト/風味のバランス、色・泡の見栄え、ISO定義適合の可否(ラベル影響)、供給量の安定。
  • 実務ポイント
    • 抹茶”表記の可否を工程(被覆→蒸し→挽砕)で先に判定。定義外なら名称・説明文言を変更(例:「緑茶粉末配合」)。
    • ブレンド設計で“らしさ”を作りつつ、表示の一貫性(原料表記/原産国)を担保。
    • テストスケールの段階で、光・熱・時間ストレス試験(ショーケース光/常温陳列)を実施。


結論:本当に乗っ取られてしまうのか?

① 端的な結論

「量の世界」と「質の世界」で勝負の土俵が違う。

  • 量(コモディティ用途):中国は輸出量↑・平均輸出単価↓(2024年は$3.80/kg)で価格優位。グローバル向けの加工・外食産業で影響力が拡大。 stir-tea-coffee.comTridge
  • 価値(ハイグレード・文化的価値・GI)遮光→蒸し→挽砕というISO/TR 21380:2022の工程定義に適合し、地域ブランド(GI)で保護・訴求できる日本が引き続き主導権を握っている。 cdn.standards.iteh.ai農林水産省

② なぜ「全面的な乗っ取り」ではないのか

  • 定義のハードル:ISOは「抹茶」を工程基準で規定。非遮光の粉砕緑茶粉末は定義外になり得るため、ラベル・規制の面で単純な価格競争になりにくい。 cdn.standards.iteh.ai
  • 名称の保護線:日本のGI制度(例:「伝統宇治碾茶」申請公示・第271号)により、地名+製法のストーリーを守りつつ差別化できる。 農林水産省
  • 需要の二層化:ラテパウダー等の大量・低中価格帯は価格の強い中国に分があるが、点前・上級グレード品質と来歴で日本が優位を維持。根本は「価格で選ばれる用途」と「価値で選ばれる用途」の併存にある。 stir-tea-coffee.com

③ いま取るべきアクション

守り(リスクを減らす)

1. ISO/TR 21380適合の証憑を調達段階で収集

  • 国際規格ISO/TR 21380:2022では「遮光栽培→蒸し→挽砕」の工程を経ているかが“抹茶”の定義として整理されています。
  • 調達先の栽培・加工工程の証憑(写真・設備リスト・第三者認証書類など)を確実に入手し、仕入れ品が“抹茶”と呼べるのかを最初に判定することが重要です。
  • 証拠が曖昧な場合、後の表示違反リスクブランド毀損リスクにつながります。

2. GI・原産地の適正表示とトレーサビリティ

  • 日本では農林水産省のGI(地理的表示)制度が整備されており、「伝統宇治碾茶」など地域ブランドを守る仕組みがあります。
  • GI登録品を扱う場合は、ラベル表示や販促物での使用方法をガイドラインに従うことが義務。
  • 仕入れから小売まで一貫したトレーサビリティを設計することで、誤表示・ただ乗りリスクを防ぎ、信頼を維持できます。

攻め(優位をつくる)

3. 用途別の線引きを先に設計

  • 仕入れ段階で「この用途なら“抹茶”表記可」「これは“緑茶粉末”表記に留める」とラベルポリシーを用途別に分けておくと、商品開発時に迷わず進められます。
  • あわせてKPI(例:色保持率・泡立ち・アミノ酸含有量)を用途別に数値化し、品質管理の指標とするのがおすすめです。

4. 価値訴求と供給安定の両立

  • 上位帯(点前・専門店向け)は品質+物語性(地域・生産者のストーリー)を強調し、差別化マーケティングで日本産の優位を固める。
  • 価格センシティブな外食・加工向けは、標準化スペック(粒度・色基準・残留農薬)を設計し、日本×海外の二重調達で安定供給を確保する。
  • これにより、「高級は日本」「量は日中ブレンドや中国産」と用途に応じた最適調達モデルを作ることができます。

抹茶粉末をお探しの企業様へ

弊社では、京都・宇治をはじめ、鹿児島・福岡・静岡など日本各地の産地から、有機JAS認証付きのセレモニアルグレードから加工用まで、幅広いグレードの抹茶を取り揃えております。

「案件はあるのに、安定して抹茶を仕入れられない…」
「カフェの新メニューで抹茶を使いたい!」

そんなお悩みをお持ちの企業様は、ぜひ抹茶タイムズにご相談ください。
まずはお気軽にお問い合わせください。

まとめ|現状の分析結果ととネクストアクション

現状

  • 世界的な抹茶ブームで需要は拡大。日本の輸出は数量+16%/金額+25%(2024年)と最高水準。
  • 一方で、猛暑・原料てん茶・挽砕能力の制約により供給は逼迫、高値基調。輸出は米国偏重で感応度が高い。

中国の台頭

  • 貴州・銅仁(江口)を中心に工業的な量産拠点が形成。年1,200t規模・40超市場へ輸出の発表など、供給力は可視化。
  • 中国全体の平均輸出単価は下落し、価格競争力が上昇。米国向け輸入も増加し、外食・加工の“量の世界”で影響力が拡大。

定義と品質の枠

  • ISO/TR 21380:2022は“抹茶”を遮光→蒸し→挽砕の工程で定義。非遮光の緑茶粉末は定義外になり得る。
  • 日本のGI制度(例:伝統宇治碾茶)が名称と物語を保護し、表示の適正化を後押し。

勢力図(棲み分け)

  • 外食・加工(量・コスト重視):中国産“抹茶/抹茶状粉末”が浸透しやすい。
  • 専門店・嗜好(価値重視):日本産(被覆・石臼挽き、GI等)が優位。
  • 中間帯:ブレンドや“ジャパニーズスタイル”訴求が増え、定義と表示の線引きが勝負。

結論

  • これは“乗っ取り”ではなく“棲み分け”。
  • 量の世界では中国が拡大、価値の世界では日本が定義・品質・ブランドで主導。
  • 日本側は定義と表示、官能価値、トレーサビリティ守りと攻めを両立させる段階。

いま取るべき実務アクション

  • 守り:①ISO適合証憑(被覆・蒸機・挽砕)を調達段で収集 ②GI・原産地の適正表示トレーサの明文化。
  • 攻め:③用途別の線引き(“抹茶”表記可否・成分/官能KPI)を先に設計 ④価値訴求(官能×物語)を磨き、価格帯ゾーンは標準化+二重調達で安定供給。

3行まとめ
① 需要は世界的に拡大、供給は日本で制約。
② 量は中国、価値は日本という棲み分けが進行。
定義・表示・官能・トレースを軸に“守り×攻め”で設計すれば、利益とブランドを両立できる。

こちらもおすすめ

LINE
記事の広告掲載はこちら