お茶サプライチェーンの未来|一次加工・二次加工・流通の再編
お茶は古くから日本の暮らしと文化を支えてきました。しかし今、そのサプライチェーンは大きな転換点を迎えています。国内需要の縮小と輸出拡大のギャップ、高齢化による担い手不足、そして国際規格やサステナビリティ対応といった課題が同時に押し寄せているからです。
一方で、世界的な抹茶ブームや健康志向の高まりは、日本茶にかつてない追い風をもたらしています。荒茶製造から二次加工、流通までの構造を再編することができれば、日本のお茶産業は再び成長産業へと生まれ変わる可能性があります。
本記事では、一次加工・二次加工・流通の現状と課題を整理し、未来のお茶サプライチェーンがどうあるべきかを解説します。伝統と革新が交わる“お茶の未来像”を一緒に描いてみましょう。
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序章:なぜ今“茶業サプライチェーン”が問われているのか

お茶は日本の文化や日常生活に深く根付いてきましたが、その産業構造はいま大きな岐路に立たされています。需要の変化、供給体制の脆弱性、そして国際規格やサステナビリティへの対応という複合的な課題が、サプライチェーン全体を揺さぶっているからです。ここではその背景を整理します。
国内需要縮小と輸出拡大のギャップ
まず大きな構造変化は、国内市場の縮小と海外市場の拡大という相反する動きです。
家庭で急須を使う習慣は失われ、リーフ茶の消費額は年々減少しています。ペットボトル茶やティーバッグなど利便性を重視した製品が主流となり、伝統的な茶葉市場は縮小の一途です。
その一方で、海外では「MATCHA」や緑茶飲料が健康志向やウェルネス市場と結びつき、急速に拡大。アメリカや欧州では抹茶ラテや抹茶スイーツが定着し、2024年の緑茶輸出額は過去最高を更新しました。つまり、国内外の需要ギャップが広がり続けるなかで、サプライチェーンの在り方を見直す必要性が高まっているのです。
高齢化・人手不足・設備老朽化という課題
次に、生産現場の脆弱化が深刻化しています。
農家の高齢化率は60%を超え、新規参入は少なく、担い手不足が進行。茶畑の約4割は樹齢30年以上に達しており、収穫量や品質の低下が懸念されています。さらに後継者不在による耕作放棄茶園は増加傾向にあり、生産基盤そのものが縮小しています。
こうした衰退は、単に供給力を落とすだけでなく、地域社会にも影響を及ぼします。放棄茶園は野生動物の被害や土砂災害のリスクを高め、景観価値や観光資源の損失にもつながります。つまり、茶業の衰退は地域の持続可能性そのものを揺るがす問題なのです。
サステナビリティ・国際規格対応の必要性
さらに見逃せないのが、国際規格や環境対応の圧力です。
欧米では有機認証や残留農薬基準を満たさなければ輸出が難しく、認証取得は輸出拡大の必須条件となっています。また、温暖化による収穫量変動や品質低下はすでに現場で実感されており、気候変動に強い栽培手法や設備投資が欠かせません。
同時に、ESG経営やカーボンニュートラル対応といった国際的要請も強まっており、これに応えられない企業は「輸出不可能=市場から排除」というリスクを負います。逆にいえば、対応を進めた企業はブランド信頼性を高める大きなチャンスを手にできるでしょう。
三重苦に直面する日本茶産業
こうした現状を総合すると、日本茶産業はいま
という三重の課題に直面しています。もし改革を怠れば、「2050年に国内の茶畑が姿を消す」というシナリオが現実になる可能性も否定できません。
しかし逆に、これを機にサプライチェーンを再編できれば、日本茶は再び成長産業として世界で存在感を高められるでしょう。文化と産業の両輪をつなぐ再編こそが、未来を拓く唯一の道なのです。
一次加工の現状と課題(荒茶製造)

お茶のサプライチェーンは「荒茶製造」から始まります。荒茶は、農家が摘んだ茶葉を蒸して揉み、乾燥させた半製品であり、その後の二次加工によって最終製品に仕上げられます。この一次加工の段階で品質が大きく左右されるため、非常に重要な役割を担っています。
しかし現状では、工場の集約化・人手不足・設備の老朽化といった課題が同時進行しており、供給体制の不安定化が深刻化しています。
荒茶製造工程と設備の概要
荒茶の製造は、摘採した茶葉をすぐに蒸して酸化を止め、揉んで乾燥させる工程を経ることで行われます。水分を取り除くことで保存性を高め、後工程である「火入れ」や「ブレンド」に適した状態に仕上げるのです。
この工程には、大型の製茶機械が必要であり、蒸機・粗揉機・中揉機・精揉機・乾燥機といった複数の設備が連動して稼働します。導入や維持には数千万円単位の投資が必要で、電力・燃料コストも高額です。そのため、小規模農家にとっては大きな負担となり、工場の維持・更新が困難になっています。
荒茶工場の集約・減少トレンド
かつては各地域に数多く存在した荒茶工場ですが、農家の減少や後継者不足に伴い急速に数を減らしています。現在では、農協や地域単位での共同利用型工場が中心となり、個別経営の工場は少数派となりました。
この集約化は効率性を高める一方で、地理的な偏在を招きました。山間部などから遠距離輸送を強いられる農家では、摘んだ茶葉を新鮮なうちに搬入できず、品質低下のリスクが高まります。また、燃料費や人件費の上昇によって搬送コストが増加し、地域間格差が拡大するという課題も浮き彫りになっています。
労働集約からスマート農業・省力化への転換
荒茶製造は従来、熟練作業者の経験に依存してきました。葉の状態を見極めながら蒸し時間や乾燥度合いを調整する必要があり、人手と技能に支えられてきたのです。
しかし現在は、担い手不足を背景に、自動収穫機やAIによる品質判定システムの導入が進んでいます。センサーで葉の水分量を測定し、最適な乾燥条件を自動制御する技術や、工場間でデータを共有して効率的に運営する仕組みも実用化されつつあります。
将来的には、荒茶工場をスマート農業拠点化し、少人数でも安定的に高品質の荒茶を供給できる体制が不可欠です。これにより、労働力不足と品質低下という二重のリスクを軽減することが期待されています。
二次加工・仕上げ工程の再編

一次加工で製造された荒茶は、そのままでは製品として市場に出せません。ここに「二次加工」と呼ばれる工程が加わり、消費者の嗜好に合った商品価値を持つお茶へと仕上げられます。火入れ・ブレンド・粉砕といった工程は、日本茶の多様性を生み出す鍵であり、ブランド戦略や市場拡大に直結しています。
しかしこの領域にも、需要の変化・設備不足・品質管理といった再編の波が押し寄せています。
火入れ・ブレンド・粉砕の役割
二次加工の基本工程には、それぞれ明確な役割があります。
- 火入れ(仕上げ焙煎):茶葉に熱を加えることで青臭さを取り除き、香ばしさや甘みを引き出す工程。産地や銘柄ごとの個性を際立たせるだけでなく、保存性の向上にもつながります。
- ブレンド:複数の荒茶を組み合わせ、味や品質を安定させる工程。原料の年次差や産地差を補い、消費者が求める「変わらない味」を保証する役割を持ちます。
- 粉砕:碾茶を抹茶に加工したり、緑茶を粉末茶に仕上げたりする工程。抹茶ラテ・スイーツ・機能性食品など新しい需要を支える基盤となっており、特に輸出拡大に直結しています。
近年の抹茶需要急増により、粉砕工場の存在感は飛躍的に高まっています。消費者の「飲む」だけでなく「食べる抹茶」需要に対応するには、二次加工工程の高度化が不可欠です。
碾茶・抹茶加工工場不足とボトルネック化
抹茶の原料である碾茶は、専用の遮光栽培と製造設備を必要とします。そのため、碾茶を扱える工場は限られており、地域的にも偏在しています。
輸出需要が急増しているにもかかわらず、粉砕設備の能力が追いつかず、供給量が需要に対応できない「ボトルネック」が顕在化しています。特にアメリカ・ヨーロッパ市場では、年率8〜10%の成長を見せる一方で、日本国内の加工体制が輸出拡大の制約となっているのが現実です。
さらに、粉砕工程には高い衛生基準・認証対応(有機・HACCPなど)が求められるため、単なる増設では済まない難しさがあります。この問題を解決できるかどうかが、今後の抹茶産業の国際競争力を左右するでしょう。
共同利用施設・委託加工の増加と課題
工場不足を補うために、近年は共同利用施設や委託加工サービスの利用が増加しています。複数の農家や事業者が設備をシェアすることで、設備投資負担を軽減し、一定規模の供給力を確保できるという利点があります。
しかしその一方で、課題も浮き彫りになっています。
- 品質の均一化:利用者ごとに原料や仕上げ基準が異なるため、安定した品質管理が難しい
- トレーサビリティの確保:輸出市場では「どの畑・どの工場で加工されたか」の明示が必須であり、委託や共同利用では透明性の担保が求められる
- ブランド戦略との整合性:独自性を打ち出したいブランドにとって、共通設備で加工された商品は差別化が難しい
このため、規模の効率化とブランド価値の両立が大きなテーマとなっています。将来的には、地域コンソーシアム型の高機能仕上げ工場や、データ管理による生産履歴の可視化が必要になるでしょう。
流通の変化と新しいチャネル

日本茶の流通は、ここ数十年で大きな転換期を迎えています。かつては市場や茶商を中心にした卸売構造が主流でしたが、現在は消費者ニーズの多様化・EC技術の普及・海外需要の高まりを背景に、新しいチャネルが台頭しています。これにより、生産者やブランドは従来以上にダイレクトに市場へアクセスできるようになりました。
市場流通(茶商・卸)から直販・OEMへのシフト
従来は、農家が荒茶を市場に出荷し、茶商や卸業者が買い付けて加工・販売する仕組みが基本でした。このモデルは安定性がある一方で、価格決定権が農家ではなく市場や卸に集中するため、農家の収益性は低く抑えられる傾向にありました。
近年は、以下のような直販型のチャネルが拡大しています。
- 農家直販:自園自製・直売所・オンラインショップで消費者に直接販売
- OEM(受託生産):大手飲料メーカーやスイーツブランド向けに茶葉を供給し、安定した販路を確保
- クラウドファンディング:新商品開発や新茶販売で資金調達と顧客獲得を同時に実現
このような流れにより、小規模農家でもブランドを立ち上げ、「顔の見えるお茶」を提供する動きが広がっています。
越境EC・海外卸・クラフトブランドの台頭
国内消費が減少する一方で、海外市場は拡大基調にあります。AmazonやShopeeといった越境ECの普及により、農家や中小ブランドでも海外の個人消費者に直接アプローチできる環境が整いました。
また、近年は北米や欧州でクラフトティーブランドが次々と誕生しており、日本茶を原料としたオリジナルブレンドや抹茶スイーツが人気を集めています。こうしたブランドとの提携は、日本茶の新しい付加価値モデルを創出し、輸出の幅を広げています。
ただし、越境ECには物流コスト・輸入規制・関税といった課題も伴うため、現地パートナーとの協業や現地倉庫の活用が今後の重要な戦略となるでしょう。
サプライチェーン透明化(トレーサビリティ・GI認証)
消費者の安心・安全志向が強まる中で、トレーサビリティ(生産履歴の追跡)やGI(地理的表示)認証の活用が広がっています。
- トレーサビリティ:生産者名・栽培方法・加工履歴を明示することで、信頼性を確保
- GI認証:「宇治茶」「八女茶」など地域ブランドを守る仕組みで、差別化と価格プレミアムを実現
こうした取り組みは単なる規制対応にとどまらず、ブランド価値を高め、海外市場での競争力を強化する武器となります。特に輸出市場では、「どこで・誰が作ったか」という透明性が購買決定に直結しており、今後ますます重要性を増す分野です。
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お茶サプライチェーンの再編は、いままさに進行中のテーマです。輸出規制、サステナビリティ対応、ブランド戦略など、現場の声や最新の事例を知ることで、自社の取り組みに活かせるヒントが見えてきます。
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まとめ:お茶産業を“つなぐ”再編こそ未来を拓く
お茶サプライチェーンの未来は、一次・二次加工・流通が垣根を越えて連携することにかかっています。国内市場の縮小や人手不足といった課題は深刻ですが、海外需要の拡大、テクノロジーの進化、サステナビリティ対応といった追い風を活かせば、新しい可能性が広がります。
次世代のお茶産業は、地域資源とグローバル市場をつなぐ「レジリエントなサプライチェーン」として再構築されるべきです。


