抹茶サプライチェーンの断面図|農家・てん茶加工・仕上げ屋・卸・商社までの役割と利益構造
あなたがカフェで味わう一杯の抹茶ラテ。その粉末がどのような道をたどって手元に届くか、想像したことはありますか?
実は、抹茶が消費者のもとに届くまでには、農家・てん茶加工・仕上げ加工・卸・商社といった多層的なプレイヤーが関わり、驚くほど複雑な流通構造を形成しています。
「なぜ価格が企業ごとに違うのか」「なぜ“産地直送”が難しいのか」――その背景には、日本茶業界特有の分業構造と高い専門性があります。
この記事では、抹茶のサプライチェーンを12のレイヤーに分けて解説し、それぞれの役割・利益構造・課題をわかりやすく整理します。
抹茶産業の裏側を理解することで、あなたのビジネスにおける調達・OEM・輸出戦略にも新たな視点が生まれるはずです。
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なぜ抹茶のサプライチェーンは複雑なのか

抹茶の価格や品質が企業ごとに大きく異なる理由は、サプライチェーンが極めて分業的かつ多層的であることにあります。
「農家から茶葉を仕入れて粉にするだけ」と思われがちですが、実際にはその間に数多くの専門業者が関与しています。
主な構造的要因は次の通りです。
つまり、抹茶の生産から販売までには数十の工程があり、各工程が独自のコストと利益を持っています。
その結果、「産地直送」は現実的に難しく、流通を通すほど価格が跳ね上がる構造になっています。
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抹茶ができるまでの「12レイヤー」

抹茶は“農家→ミル挽き→販売”という単純な流れではありません。
実際には、品質とコストが積み重なる12段階のレイヤーで構成されています。
① 生葉農家(栽培)
抹茶の品質の源は茶葉そのものにあります。
一番茶を育てるためには、被覆(遮光)や施肥、手摘みなど、手間のかかる作業が必要です。
肥料費や人件費の高騰により、農家の利益率は低く5〜10%程度といわれます。
高齢化と後継者不足が深刻な課題です。
② てん茶加工工場(一次加工)
摘まれた生葉は蒸し・乾燥・葉脈除去を経て「てん茶」になります。
この工程を担う工場が全国で限られており、供給のボトルネックになっています。
蒸しや乾燥のわずかな差が品質を左右するため、技術格差が価格差を生みます。
③ 仕上げ加工(火入れ・色調補正・選別)
ここでは焙煎の強度や色調の微調整が行われます。
強火で香ばしさを出すか、浅火で色の鮮やかさを残すか——
この判断が最終的な品質を決めます。
「火入れ職人」の経験が、まさにブランド価値そのものです。
④ ブレンド業者(安定品質の要)
複数産地のてん茶をブレンドし、味・色・香りのバランスを整える工程です。
気候変動で品質が変わるため、OEM用途では欠かせません。
年間を通して安定供給を実現する“縁の下の力持ち”です。
⑤ 粉砕工場(石臼 or ミル)
伝統的な石臼挽きは時間とコストがかかる反面、
熱を持たず香りを損なわないため高級グレードに使われます。
一方、ミル粉砕は大量生産に適しており、食品加工や業務用で主流です。
⑥ パッカー(袋詰め・充填)
抹茶は酸化・光・湿気に極めて弱いため、充填工程が品質を左右します。
ピンホールや静電気による微小な漏れでも品質事故につながるため、
衛生基準を満たすクリーンルーム対応が求められます。
⑦ 一次卸(大量ロットを持つ卸)
主に飲食チェーンや菓子メーカーに向けて、年間契約で安定供給を行う業者。
倉庫保管や在庫リスクを負う代わりに、比較的高いマージンを得ます。
⑧ 仲卸(小ロット・多品種対応)
カフェや小規模工場など、多様なニーズに対応する調整役。
少量多品種・短納期対応が強みで、薄利多売型のビジネスです。
⑨ 商社(輸出・コンプライアンス)
FDA登録、EU Organic証明、残留農薬証明、成分表など、
輸出には数十種類の書類が必要です。
商社はこれらを代行し、“安心料”としてマージンを上乗せします。
⑩ 海外インポーター・ディストリビューター
現地での通関・保管・配送を担う層です。
為替や物流コストの影響を受けやすく、ここで価格がさらに2〜3倍になるケースもあります。
⑪ 小売・飲食店・OEMメーカー
消費者に最も近い層。
原価率・ブランド戦略に基づき価格が決定されます。
抹茶スイーツやドリンクに加工され、「プレミアム抹茶」として再構築されます。
⑫ 消費者
最終的に「高級・本格・健康志向」として認知される層。
消費者が支払う価格の中には、12レイヤー分の技術と労力が含まれています。
どこで利益が乗るのか?利益構造のリアル

抹茶の価格構造は非常に複雑ですが、結論として最も利益が薄いのは「農家」、最も利益が厚いのは「海外インポーター〜小売」にかけての流通層です。
抹茶の価格が100だとすると、農家に入るのは実質15〜20程度といわれており、分業型の構造が利益配分に大きな影響を与えています。
なぜこれほど利益差が生まれるのか。
ポイントは、①技術コスト、②設備投資、③リスク負担、④流通距離の4つです。
以下では、工程ごとの利益構造を具体的に解説します。
農家:利益率は最も低く、コスト高・収益薄
農家は最も重要な一次生産者でありながら、利益面では最も厳しい層です。
- 被覆(遮光資材)や肥料、高騰する人件費
- 気候リスク(霜害・干ばつ・台風)
- 一番茶中心の季節労働で収入が年間で安定しにくい
この結果、利益率は5〜10%台にとどまることも珍しくありません。
手間がかかるわりに報われにくい構造が、後継者不足の要因にもなっています。
てん茶加工・仕上げ加工:最も利益率が高い“技術レイヤー”
蒸し・乾燥・選別・火入れという工程は、抹茶の味と色を決める最重要工程です。
この工程には専門設備と熟練技術が必要で、以下の特徴があります。
- 工場建設に数億〜10億円規模の投資
- 火入れ職人の技術が品質を左右
- 技術が差別化要因となり、高価格帯を実現
そのため、利益率が比較的高く、抹茶価格の中核的価値を担うレイヤーです。
一次卸:大量ロットを扱う安定収益モデル
一次卸は、工場や複数の仕上げ業者から商品を買い取り、
カフェチェーン・菓子メーカーなどに大量供給する“ハブ”です。
- 大量ロットによる仕入れ単価の最適化
- 年間契約による安定収益
- 在庫リスクを管理しやすい
このため、利益率は中くらい〜やや高めで、安定したビジネスモデルです。
仲卸:小ロット対応ゆえ薄利多売
仲卸は、カフェ・小規模工房・個人事業主など、多様な顧客に小ロット販売を行います。
- 多品種・小容量の在庫管理が必要
- 配送コストや破損リスクが相対的に高い
- 単価は高いが数量が少なく利益は大きくなりにくい
そのため、利益率は高く見えても実際は薄利多売で収益性は控えめです。
商社:輸出リスクを取る“安心料”としてのマージン
商社は書類、食品規制、物流、保険など輸出全般を担う層です。
- FDA・EU Organicなど各国規制対応
- 貨物保険・破損・遅延などの国際リスク
- 英語書類やサンプル輸出などの実務コスト
こうしたリスクを負う対価として、10〜25%程度のマージンを上乗せするケースがあります。
海外インポーター:最も利益が乗りやすい層
現地のインポーターやディストリビューターは、
国内市場への再販売で最も高い利益を確保しやすいレイヤーです。
- 現地倉庫・配送料などの「物流コスト」を価格に上乗せ
- ローカルブランドのポジショニングで“プレミアム化”
- カフェや小売への卸で2倍〜3倍に価格上昇することも
ここが最も利益が乗るポイントで、最終小売価格は輸出価格の3〜5倍になるケースもめずらしくありません。
結論:現場に近いほど利益が薄く、流通に近いほど利益が厚い
抹茶産業では、農家・加工現場ほど利益が薄く、
流通・海外販売に近づくほど利益が厚くなる“逆ピラミッド型”の構造が一般的です。
これは、
- 技術や設備の専門性
- 国際物流のリスク
- マーケティング・ブランディングの効果
が重なることで生まれる独特の利益構造です。
このため、抹茶の価格が企業ごとにバラバラなのは当然の結果であり、
単純な“産地直送=安い”という構図では成り立ちません。
なぜ「産地直送」ができないのか

結論として、抹茶は“農家から直接買えば安い”というシンプルな構造ではありません。
抹茶が商品として成立するためには、てん茶加工・仕上げ加工・ブレンド・粉砕・充填・品質証明・輸出手続きなど、専門性の高い工程が何層にも重なるため、農家が単独で完結させることは不可能に近いのです。
そのため、多くの事業者や消費者が理想とする「産地直送モデル」は、構造的に成立しづらいのが現実です。ここでは、その理由を4つに整理して解説します。
① てん茶加工・仕上げ加工が完全な分業構造になっているから
農家がそのまま「抹茶」を作れるわけではありません。抹茶の原料となる“てん茶”を製造するには、以下のような高度な設備が必要です。
- 蒸熱機
- 熱風乾燥ライン
- 茶殻選別機
- 火入れ用焙煎機
- 色選機(光学選別)
これらは一般農家が持てる規模ではなく、設備投資は数億円〜10億円規模になることもあります。
そのため、日本全国のてん茶工場は非常に少なく、この分業構造が“直送を阻む最大の壁”になっています。
② 輸出に必要な書類・検査・証明が膨大で専門性が高いから
抹茶は食品であり、海外に出すには国際基準の証明書が必須です。
商社や専門卸が存在する理由は、この“書類対応”が極めて複雑だからです。
必要となる書類の例:
- FDA食品施設登録(アメリカ)
- COI(Certificate of Inspection:EU有機)
- 残留農薬検査(数百項目)
- 成分分析表(Nutrition Facts)
- 原産地証明書
- 英文Invoice / Packing list
- 衛生証明、照明書(国による)
これらを農家が個別に対応するのは現実的ではありません。
特にFDA・EU Organicは専門的知識と英語での書類作成が必須で、ミスがあれば輸送遅延や没収のリスクも伴います。
結論:農家が産地直送しようとすると、事務負担が“加工より重い”レベルになる。
③ 単一農園では品質ムラが出やすく、ブレンドがないと年間供給が難しいから
抹茶は農産物であり、天候・土壌・収穫時期で品質が大きく左右されます。
これらを均質にするために、ブレンド業者による調整が必須です。
飲料メーカー・大手OEM・海外ブランドなどは、年間で一定品質・一定ロットを求めるため、単一農園の直販では対応が困難です。
④ ロットが安定しないと大手企業に採用されないから
産地直送が難しい最大の理由の一つが「ロットの不安定さ」です。
特にBtoB市場では、以下のようなロット条件が一般的です。
- 月50kg〜500kg
- 年間1トン〜数トン
- 複数ロットで色味・香りの誤差が±5%以内
しかし、個人農家が扱えるのは、
良くても100kg〜300kg/年。
しかも品質差が非常に大きいため、継続供給の保証ができません。
その結果、大手企業は「農家直送」ではなく、品質と供給量を担保できる一次卸や加工会社を選ぶのが普通です。
結論:構造的に「産地直送」は不可能に近い
抹茶は農家→加工→仕上げ→ブレンド→粉砕→充填→品質証明→輸出→流通…
という多層構造で成り立つため、農家が単独で完結できる仕組みではありません。
つまり、
“産地直送の抹茶”という言葉はマーケティングであり、実態としては成立しない。
これが抹茶業界における最大の特徴です。
サプライチェーンの課題と今後の方向性
てん茶工場の不足
全国的に工場数が限られており、生葉の受け入れ制限が発生。
生産量拡大のボトルネックになっています。
焙煎職人の高齢化問題
熟練の火入れ職人が高齢化し、技術継承が急務となっています。
品質データの非公開性
色・香り・旨味の分析データが非公開なケースが多く、
取引の透明性が低いことが課題です。
輸出規制の複雑化
EUや北米では残留農薬基準が年々厳格化しており、
小規模生産者には参入障壁となっています。
DX化・トレーサビリティの遅れ
デジタル管理が進まず、生産履歴を証明できないケースもあります。
今後はブロックチェーン型のトレーサビリティ導入が期待されます。
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まとめ|抹茶の価値は“工程の積み重ね”で生まれる
抹茶は「粉にしたお茶」ではなく、12層に重なる専門工程の結晶です。
農家の努力、職人の技術、流通の仕組み、そのすべてが価値を支えています。


