なぜ抹茶は”日本産”が世界で選ばれるのか?ブランド確立の背景と差別化戦略を解説

「抹茶なら日本産」——世界のバイヤーやカフェオーナーから、口をそろえて聞く言葉です。しかし現実には、中国が世界供給量の約半分を担い、価格は日本産の1/3〜1/5という市場がすでに広がっています。それでもなお、日本産が選ばれ続けるのはなぜなのでしょうか。

そこで本記事では、品質・制度・文化という3つの軸から、日本産抹茶のブランド確立の背景と差別化戦略を徹底解説します。仕入れ判断に悩む海外バイヤーや、調達コストの最適化を検討している担当者の方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。


弊社では、京都・宇治をはじめ、鹿児島・福岡・静岡など日本各地の産地から、
有機JAS認証付きのセレモニアルグレードから加工用まで、幅広いグレードの抹茶を取り揃えております。

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現実を知る——中国産が急台頭する抹茶市場の構造

まず、「日本産=抹茶のスタンダード」という認識は、いまや再検討が必要な段階に入っています。結論から言えば、数量・価格の両面で中国産が急速に存在感を高めており、市場の構造は5年前とは大きく変わっています。そのため、現実を正確に把握することが、賢い調達戦略の出発点になります。

世界供給量の約半分は中国産——数字が示す市場の実態

日本と中国の茶生産量を比較すると、その差は圧倒的です。2023年の生産量は、日本が約74,756トンに対し、中国は約3,000,000トン。実に40倍以上の規模差があります。特に中国・貴州省銅仁市には世界最大規模の抹茶工場が集積しており、効率的な大量生産によって日本産の1/3〜1/5の価格で世界市場に供給できる体制が整っています。

世界全体の抹茶供給量で見ると、中国が約半分を占めるという試算もあります。「抹茶といえば日本産」というイメージは消費者レベルでは根強いです。一方、実際に流通している抹茶の多くが中国産またはそのブレンドであるという現実を、バイヤーは正確に知っておく必要があります。

中国産の品質は向上している——バイヤーが知るべき最新動向

また、「中国産=粗悪品」という単純な図式は、もはや通用しません。2025年1月にFoods誌(MDPI)に掲載された官能評価と代謝物分析の研究(PMC11720590)では、静岡産93.5点に対し中国・恩施産が90.7点と、わずか2.8ポイント差まで迫っていることが示されました。

この研究は中国政府の助成金で行われており、中国側が自国産の品質改善を客観的に測定・推進している構図です。上位産地の研究用サンプルと市場流通品の間にはまだ差があります。しかし「品質的に追いつかれつつある」という認識を持って調達戦略を立てることが重要です。

用途によって棲み分けが進んでいる

日本産抹茶の価格帯は1gあたり50〜300円、中国産は10〜50円です。この価格差を踏まえると、すべての用途で日本産にこだわることが合理的とは言えません。実際、ラテや製菓・スムージーなどの加工用途では、品質の高い中国産で十分なケースも出てきています

一方で、飲用として点てる場面やブランド訴求が重要なOEM製品では、日本産が依然として絶対的な差を保っています。したがって、「どの用途に何を使うか」という合理的な棲み分けの判断こそが、これからのバイヤーに求められる視点です。

日本産が差別化できる”3つの本質的な優位性”

それでも日本産が世界市場で選ばれ続ける理由は、価格や数量では説明できない領域にあります。結論を言うと、製法・安全基準・文化的文脈という3つの本質的な優位性が、日本産ブランドを支えています。この3点を正確に理解することが、サプライヤー選定の軸になります。

優位性① 製法の差——碾茶・長期被覆・石臼挽きという三重の壁

まず、日本産と中国産の品質差は、製法の根本的な違いから生まれます。以下の比較表を見てください。

属性日本産中国産
原料碾茶(被覆20〜28日・葉脈除去)被覆なし〜短期間(0〜14日)の茶葉
粉砕方法石臼(1時間に30〜40g)ボールミル・ジェットミル(kg単位/時間)
鮮やかな深い緑黄みがかった緑〜くすんだ緑
価格帯1gあたり50〜300円1gあたり10〜50円

特に重要なのが被覆期間です。収穫前に20〜28日間遮光することで、旨み成分テアニンが蓄積され、渋みの元となるカテキンの生成が抑えられます。石臼でゆっくり挽くことで粒子が細かく均一になり、溶けやすさと口当たりにも差が出ます。この「碾茶×長期被覆×石臼挽き」という三重の壁が、品質の根本的な差を作り出しています。

優位性② 安全基準と認証体制——COA・有機JAS・MRL対応力

また、農林水産省のデータによると、EU・英国向けでは有機栽培茶が輸出量の約8割を占めています。これは、EU市場の厳格な残留農薬基準(MRL)に対応できるサプライヤーでなければ、そもそも輸出できないことを意味しています。

例えば日本産の主要サプライヤーが整備している認証体制は以下のとおりです。

  • FDA登録(米国向け必須)
  • FSSC 22000 / ISO 22000(食品安全マネジメント)
  • 有機JAS(EU同等性認定により欧州有機認証として機能)
  • Halal認証(東南アジア・中東向け)
  • COA(分析証明書):農薬残留・重金属・微生物検査

これらの認証を取得・維持するコストと技術力は、そのまま日本産ブランドの信頼性の制度的裏付けになっています。したがって、中国産が価格面で優位でも、認証体制が整っていなければEU・米国市場では選択肢にすら入れないのです。

優位性③ 文化的文脈——「抹茶=日本文化」という代替不可能な価値

例えば、台湾・中国・タイなどでは、「抹茶=日本文化の象徴」として強く認知されています。特に茶道・アニメ・観光体験を通じて「本物の日本抹茶」を求める消費者層がすでに形成されており、これは**単なる食品を超えた”意味を持つ商品“**としての流通を生み出しています。

日本旅行で抹茶体験をした外国人観光客が、帰国後も「あの味を再現したい」と日本産を探し続けるケースは世界中で増えています。この文化的文脈は、どれだけ製法を改善しても中国産が短期間では獲得できない差別化要素です。価格競争ではなく文化価値の提供こそが、日本産ブランドを守る最後の砦と言えます。

ブランドを守るために日本が動いている——商標・GI・ISOの最前線

日本産ブランドへの需要が高まる一方で、世界市場では深刻な問題が起きています。結論を言うと、「宇治抹茶」を名乗る中国産の偽装品が世界中に出回っているのです。そのため、日本の生産者・行政・研究機関が、ブランド保護のために本格的に動き始めています。

偽装表示の横行——バイヤー側のブランドリスクに直結する問題

実際に起きた問題をご存じでしょうか。中国産であるにもかかわらず「宇治抹茶」とパッケージに記載し、消費者を誤認させる商品が複数確認されています。2025年4月には、MBSニュースでも「中国の販売元は消費者をだましている認識がない」と報じられました。

この問題がバイヤーにとって重大な理由は、仕入れ先の産地を確認できていない場合、最終的な被害が自社ブランドに及ぶからです。「日本産使用」と謳った商品に中国産が混入していれば、消費者からの信頼失墜だけでなく、法的リスクも生じます。そのため、産地トレーサビリティの確認は、もはや「できれば望ましい」ではなく「必須の調達基準」です。

産地ブランドを守る制度——地域団体商標とGI保護制度

日本の生産者は、制度的な対抗策を積極的に講じています。

  • 「宇治抹茶」:京都府茶協同組合が特許庁に地域団体商標(登録第6226519号)として登録
  • 「西尾の抹茶」:農林水産省のGI(地理的表示)保護制度に抹茶として全国唯一の登録を取得。西尾茶協同組合はアメリカ・中国・タイなど9カ国・地域で商標登録も申請中

特筆すべきは、中国企業がEUと中国で「西尾」「西尾抹茶」の商標登録を先に申請していたため、日本側が異議申し立てを行っているという事実です。つまり、ブランドの戦いはすでに法廷・制度レベルに移っています。これらの保護制度を持つ産地からの調達は、バイヤー側にとっても信頼性の根拠になります。

ISOによる国際規格化——「本物の抹茶」の定義が世界基準になりつつある

加えて、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)を中心に、抹茶をISO(国際標準化機構)で定義する取り組みが進んでいます。2022年のISO技術報告書には、日本の抹茶の栽培・製造方法と歴史がすでに掲載されました。

国際規格が確立されれば、碾茶工程を経ない粉末茶が「抹茶」として流通することへの制度的な歯止めがかかります。つまり、日本産の競争優位が制度的に担保される方向に向かっており、長期的な調達戦略を立てるうえで重要な動きです。

用途別・市場別に見る「日本産が勝つ領域」と「使い分けが合理的な領域」

ここまでの内容を踏まえ、実際の調達判断に落とし込みます。「日本産か中国産か」という二択ではなく、用途・市場・目的によって最適な選択が変わるというのが現実です。

日本産が圧倒的に優位な3つの領域

特に以下の用途・市場では、日本産を選ぶことが競争優位に直結します。

  • ① プレミアムカフェ・茶道用途:薄茶・濃茶として点てる場面では、碾茶×石臼挽きの製法差が味に直接出ます。特に旨みの深さ・泡立ちの細かさ・後味のまろやかさが、顧客体験の差として現れます。
  • ② ブランド訴求OEM製品:「日本産使用」「宇治抹茶使用」という表示は、スーパーフードとしての認知と日本文化の信頼性を同時に訴求できます。商品パッケージの差別化要素として、価格差を正当化するマーケティング上の強みになります。
  • ③ EU・米国向け輸出品:MRL基準・有機認証の要件が特に厳しく、日本産サプライヤーが整備してきた認証体制が必要不可欠です。EU・英国向けでは有機栽培茶が輸出量の8割を占める実績がその証左です。

中国産との”使い分け”が合理的な領域と、仕入れ先選びの4基準

一方、すべての用途で日本産にこだわることが最善とは限りません。抹茶ラテ・スムージー・大量製菓向けなどコスト重視の用途では、品質の高い中国産が合理的な選択肢になるケースがあります。つまり、「日本産絶対主義」では調達コストが見合わない場面も存在します。

そのため、用途を問わず、仕入れ先を選ぶ際には以下の4点を確認することが基本です。

  • ① 産地・品種・茶期のトレーサビリティ(産地証明書・納品書の産地明記)
  • ② COAとMRL対応実績(輸出先国ごとの残留農薬基準への対応履歴)
  • ③ 年間安定供給量の確約(一番茶シーズンの優先確保体制)
  • ④ 用途別グレード提案能力(飲用・ラテ・OEM・製菓で最適品を提案できるか)

日本産ブランドの未来——産地が仕掛ける次の差別化戦略

価格では中国産に勝てない。しかしブランドでは勝てる。この構図をさらに強化するために、日本の産地は**「シングルオリジン」という次の差別化戦略**を仕掛け始めています。

「シングルオリジン」戦略——産地・品種・茶師の顔が価格プレミアムを生む

海外市場で注目を集めているのが、産地・品種・生産者を明示する「シングルオリジン」アプローチです。京都・宇治の茶農家と直契約するMatchafulや、産地名を前面に出すCha Cha Matchaは、このアプローチで高価格帯での市場確立に成功しています。「誰がどこで作ったか」を語れることが、中国産との決定的な差別化になっているのです。

この戦略が有効な背景には、コーヒー市場での「スペシャルティコーヒー」の成功があります。産地・農家・焙煎士を開示することでプレミアム価格を正当化したコーヒー業界と同じ変化が、抹茶市場でも起きています。

産地ごとの特性を活かした役割分担——宇治・静岡・鹿児島・八女

日本産抹茶は一枚岩ではなく、産地ごとに風味・価格帯・認証状況が異なります。用途に合わせた産地選択が、調達の質を大きく左右します。

産地風味の特徴主な用途
京都・宇治深い旨み・上品な甘み・香り高いセレモニアル・高級OEM
愛知・西尾バランスの良い旨みと渋みカフェ・製菓・輸出用
静岡爽やかな風味・コスパ高いラテ・大量OEM
鹿児島明るい緑色・クリアな味わい製菓・機能性食品
福岡・八女濃厚な旨み・独特の甘みプレミアム飲用

「宇治だけ」「鹿児島だけ」ではなく、用途と予算に応じて複数産地を使い分けられるサプライヤーと組むことが、安定した調達と品質の最適化を実現します。

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まとめ|「日本産」を選ぶことは、バイヤーのブランド戦略の核心である

本記事の要点を3点で整理します。

【日本産抹茶が世界で選ばれ続ける3つの根拠】

  • ① 製法の差:碾茶×長期被覆×石臼挽きという三重の壁が、旨み・色・香りのすべてで中国産との差を生み出している
  • ② 認証・安全基準:FDA・有機JAS・FSSC 22000などの認証体制が、EU・米国市場への参入条件として機能している
  • ③ 文化的文脈:「抹茶=日本文化」という代替不可能なブランド価値が、消費者の価格プレミアムを正当化する

中国産の品質向上と価格優位は今後も続きます。だからこそ、「本物の日本産」を証明できるサプライヤーとの関係を早期に構築することの価値が、ますます高まっています。安さで勝負するのではなく、日本産のブランド価値を武器に市場で勝つ。その戦略を支える調達パートナーを選ぶことが、長期的な競争優位につながります。

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