抹茶のタイ輸出ガイド|規制・必要書類・JTEPA特恵を実務目線で解説

タイは、東南アジアでも有数の抹茶消費市場へと成長しています。カフェ、ベーカリー、ドリンクチェーン、そして製菓メーカーからの引き合いは年々増えています。一方で、「商談はまとまったのに、書類対応でつまずいて出荷が止まった」というケースは少なくありません。

タイへの食品輸出は、規制の事前把握が成否を分けます。とくに抹茶は法令上「茶」として扱われるため、一般的な加工食品とは少し異なる手続きが必要になります。

この記事では、タイへの販路展開を目指す国内バイヤーの方に向けて、抹茶をタイへ輸出する際の規制と必要書類を、JETRO・タイ保健省(FDA)の一次情報をもとに整理します。

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なぜタイ向け抹茶輸出は「規制の事前把握」が重要なのか

結論から言えば、タイへの抹茶輸出でつまずく原因の多くは、製品そのものではなく書類と手続きにあります。理由は3つあります。

第一に、手続きが「輸出者側」と「輸入者側」に分かれているからです。日本側(輸出者)が用意する書類と、タイ側(輸入者)が取得する許可は別物です。どちらか一方が欠けると、通関は止まります。

第二に、抹茶が「茶」として個別の食品規格を持つからです。タイには茶専用の品質規格があり、一般的な菓子原料とは基準が異なります。

第三に、適用できる経済連携協定が限られているからです。後述しますが、茶の特恵関税で使えるのはJTEPAだけです。この点を知らずにAJCEPやRCEPを前提に価格設計すると、想定外の関税負担が発生します。

つまり、規制を最初に押さえることが、結果的に最短ルートになります。

抹茶のタイ輸出は可能。ただし「茶」特有の関門がある

まず大前提として、日本からタイへの緑茶(抹茶を含む)の輸入は可能です。抹茶は粉末状の緑茶であり、HSコード上は次のいずれかに分類されます。

  • 0902.10:緑茶(発酵していないもの/重量3kg以下の直接包装)
  • 0902.20:その他の緑茶(発酵していないもの)

関係する省庁も整理しておきましょう。タイ側では、保健省食品医薬品委員会事務局(FDA)が食品法を、農業協同組合省が植物検疫を、財務省関税局が関税を、商務省が関税割当と原産地を所管しています。

そのうえで、抹茶輸出で押さえるべき主要な書類と取得主体は、次のとおりです。

必要書類・手続き取得・対応する主体根拠
GMP製造基準適合証明書輸出者側(日本の加工場・認証機関)保健省告示第420号
植物検疫証明書輸出者側(農水省植物防疫所)※抹茶は不要の可能性植物検疫法
成分分析証明(COA)・残留農薬試験成績書輸出者側(試験機関)告示第387/414号ほか
特定原産地証明書(JTEPA)輸出者側(日本商工会議所)JTEPA
輸入業務許可証(Orr.7様式)輸入者側(タイ現地法人)食品法
商品ごとの食品登録輸入者側食品法
タイ語ラベルの認可輸入者側食品法

ここからは、とくに重要な関門を順に解説します。

【関門1】GMP製造基準適合証明書(保健省告示第420号)

最大の関門が、このGMP製造基準適合証明書です。タイでは、販売用の輸入食品について、国内と同等以上の製造施設で製造されたことを示す証明書の提出が求められます。

対象となるのは、未加工の生鮮水産物とアルコール飲料を除くほぼすべての食品です。当然、茶(抹茶)も対象になります。

ただし、GMP証明書はゼロから取得し直す必要はありません。次のような国際規格・公的書類が代替として使えます。

  • ISO 22000:2018、FSSC 22000
  • JFS-B、JFS-C
  • BRC(Global Standard for Food Safety)、IFS
  • 農林水産省発行のGMP証明書
  • 日本の食品衛生法第55条(旧第52条)に基づく営業許可証

なお、証明書がタイ語または英語でない場合は、翻訳と翻訳証明が必要です。さらに、原本ではなく写しを使う場合の写し証明にもルールがあります。詳細は手続きが細かいため、加工場や認証機関と早めにすり合わせておきましょう。

ここで重要なのは、抹茶を挽く加工場(碾茶を粉砕する工場)が、この基準を満たしているかどうかです。つまり、どの加工場と組むかが、タイ輸出の可否を実質的に左右します。

【関門2】植物検疫証明書 ── 抹茶は「不要」の可能性が高い

緑茶をタイへ輸入する場合、原則として輸出国側の植物検疫証明書が必要です。しかし、ここに抹茶ならではのポイントがあります。

JETROの解説では、「一定以上加工されている場合やペットボトルの場合は不要」とされています。抹茶は碾茶を微粉末に挽いた高度な加工品です。そのため、一般には植物検疫証明書が不要と解される可能性が高いと考えられます。

ただし、加工の程度や通関時の判断によって取り扱いが変わる場合があります。そのため、実際の輸出前には、農林水産省植物防疫所やフォワーダーに個別確認することをおすすめします。なお、証明書が必要な場合の発給元は、日本の農林水産省植物防疫所です。

【関門3】タイの食品規格(保健省告示第196号「茶」)

タイには茶専用の食品規格があります。抹茶はチャノキ(Camellia sinensis)を原料とするため、保健省告示第196号「茶」の対象です。植物由来の茶を定めた告示第426号ではない点に注意してください。

告示第196号で定められた主な品質規格は、次のとおりです。

  • 水分:茶葉重量の8%以下
  • 灰分:乾燥茶葉重量の4%以上、8%以下
  • 水溶性灰分:灰分の45%以上
  • 熱湯による抽出物:乾燥茶葉重量の32%以上
  • カフェイン含有量:茶葉重量の1.5%以上
  • 香り付けの物質を加える場合は、人体に影響がなく、かつFDAの承認を得たものに限る

なお、かつて規定されていた「色素を加えていないこと」という規格は、告示第417号によって取り消し済みです。とはいえ、着色料の使用には別途タイの食品添加物規制が適用されるため、無添加で出荷するのが無難です。

【関門4】残留農薬・重金属・汚染物質の基準

茶は加工の過程で農薬や重金属が濃縮されやすい食品です。そのため、これらの基準は特に慎重に確認する必要があります。

残留農薬は、保健省告示第387号・第419号・第449号で規定されています。製造・輸入が禁止されるカテゴリー4の有害物質は、不検出であることが求められます。茶(乾燥茶葉)の最大残留基準値(MRL)の例は、次のとおりです。

  • ダイアジノン:0.1 mg/kg
  • フェニトロチオン:0.5 mg/kg
  • アメトリン:0.05 mg/kg

MRLが定められていない農薬は、コーデックス委員会の基準値が適用されます。それもない場合は、一律基準値0.01 mg/kgが上限です。また、クロルピリホスやパラコートなどは不検出が求められます。

重金属・汚染物質は、保健省告示第414号で規定されています。茶(乾燥状態)のカドミウムは0.3 mg/kgが上限です。共通基準として、鉛0.5 mg/kg、総水銀0.02 mg/kg、総アフラトキシン20μg/kgなどが設定されています。

実務上は、日本側でCOA(成分分析証明)や残留農薬試験成績書をあらかじめ用意しておくと安心です。これにより、通関での停止リスクを大きく下げられます。

タイ語ラベルと輸入者側の登録(Orr.7・FDA)

ここまでは主に輸出者側の話でした。一方で、タイ側(輸入者側)にも重要な手続きがあります。

まず、消費者へ直接販売される食品のラベルは、タイ語での表示が義務づけられています。輸入食品の場合、輸入者の名前と住所、製造国名、製造業者名、内容量などの記載が必要です。

次に、輸入はタイ国内の輸入者名義で行う必要があります。日本の輸出者が直接タイの輸入者になることはできません。輸入者は、保健省FDAから輸入業務許可証(Orr.7様式)を取得し、さらに商品ごとの食品登録を行います。

つまり、信頼できる現地輸入者やディストリビューターの存在が、タイ輸出の前提条件になります。販路開拓と並行して、書類対応に強いパートナーを確保しておきましょう。

関税とJTEPA特恵 ── AJCEP・RCEPは使えない

最後に、関税です。茶はタイにおいて関税割当(TRQ)の対象品目です。そのため、関税率は割当枠の内外で異なります。

ここで国内バイヤーが最も誤解しやすいのが、利用できる経済連携協定です。茶の特恵関税で使えるのは、日本・タイ経済連携協定(JTEPA)のみです。日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)と地域的な包括的経済連携協定(RCEP)は、いずれも茶が協定の対象外であり、利用できません。

JTEPAの特恵税率を適用する場合は、次の2つの書類が必要です。

  1. 日本商工会議所が発給する特定原産地証明書(Preferential Certificate of Origin)
  2. タイ商務省外国貿易局が発行する関税支払い権利取得証明書(様式Tor.2)

具体的な税率や割当枠は、タイ財務省関税局の関税率表や、商務省の関税割当申請スケジュールで最新情報を確認してください。価格設計の段階で、この特恵の要否を必ず織り込んでおきましょう。

タイ輸出を成功させる5ステップ

ここまでの内容を、実務の流れに落とし込むと、次の5ステップになります。

ステップ1:用途とグレードを決める カフェ用、製菓用、小売パック用など、用途を明確にします。用途によって必要なグレードと価格帯が変わります。

ステップ2:GMP系証明書を持つ加工場と組む 最大の関門です。ISO22000・FSSC22000・JFSなどを取得した加工場と連携できるかが、タイ輸出の可否を決めます。

ステップ3:COA・試験成績書を整える 残留農薬・重金属の試験成績書とCOAを用意します。タイの基準に適合していることを、出荷前に証拠で示せる状態にします。

ステップ4:現地輸入者を確保する Orr.7と食品登録の体制を持つ、信頼できる現地輸入者を確保します。ラベルのタイ語対応も、ここで連携します。

ステップ5:JTEPA特恵の段取りを決める 特恵の要否を判断し、必要なら特定原産地証明書とTor.2の取得フローを決めます。

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まとめ ── タイ輸出は「茶の規格」と「書類の分担」で決まる

抹茶のタイ輸出は、十分に実現可能です。一方で、抹茶が「茶」として個別の規格を持つため、一般的な加工食品より一段細かい書類対応が求められます。

押さえるべきポイントは、次の3つです。

  • GMP系証明書を持つ加工場と組む(告示第420号への対応が最大の関門)
  • COA・残留農薬・重金属の試験成績書を事前に整える(通関停止を防ぐ)
  • 書類対応に強い現地輸入者を確保する(Orr.7・食品登録・タイ語ラベル)

規制は随時改正されます。そのため、最終的にはJETROやタイFDAの一次情報で最新の内容を確認しながら進めるのが安全です。書類のハードルさえ越えれば、伸び続けるタイ市場は、国内バイヤーにとって大きなチャンスになります。

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