抹茶を海外へ輸出するための規制・証明書類 完全ガイド|EU・米国・台湾・ASEANの基準と、バイヤーが踏むべき調達フロー
世界的な「matcha」ブームを背景に、日本産抹茶の輸出は10年連続で過去最高を更新しています。一方で、現場では「コンテナが通関で止まった」「販売開始直前にリコールが発生した」という事例も急増しています。
その分かれ目になっているのが、抹茶そのものの品質ではなく、輸出に必要な「規制対応」と「証明書類」です。残留農薬基準(MRL)・FDA登録・有機認証・表示要件は、市場ごとに大きく異なります。つまり書類1枚の不備で全LOTが廃棄になるリスクすらあります。
本記事では、抹茶を海外バイヤー・OEM・卸として扱う方に向けて、主要市場別の規制と必要書類、失敗するバイヤーの落とし穴を説明します。そして水際で止まらないための7ステップ調達フローまで一気通貫で解説します。
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なぜ今、抹茶輸出で「規制対応」が問われているのか

結論から言えば、抹茶の海外市場は「品質競争」から「適合性競争」のフェーズへ移行しています。美味しい抹茶を作れる産地は世界中に増えました。しかし、各国の食品安全基準にきちんと適合できる抹茶は、まだ限られています。
抹茶輸出は10年連続で過去最高、しかし「水際停止」も急増
農林水産省「茶をめぐる情勢」によれば、抹茶を含む粉末緑茶の輸出額は10年連続で過去最高を記録しています。米国・EU・台湾・東南アジア・中東と、市場の裾野は急速に広がりました。
一方で、EUのRASFF(食品・飼料早期警報システム)や米国FDAのImport Alertでは、緑茶・抹茶関連の残留農薬や微生物に関する通報件数がここ数年で増加傾向にあります[要出典]。市場が拡大した分、検査・監視も厳格化しているのが現実です。
バイヤーの選定基準が「価格・品質」から「書類・トレーサビリティ」へ
欧州・北米の大手小売や食品メーカーがサプライヤー監査で重視するのは、もはや官能評価だけではありません。ロットごとの分析証明(COA)、MRL検査結果、トレーサビリティ、サプライチェーン監査記録が標準的に求められます。
言い換えると、「書類が出せない抹茶」は最初から候補に入らないのが、現在のグローバルB2B市場です。
「日本産」というブランドだけでは通関は通らない
「日本産だから安全」というイメージは、海外バイヤーにとっても強い差別化要素ですが、各国の法令上は「日本産」というだけで規制が免除される国は存在しません。EUのMRL、米国FDAのFSMA、台湾TFDAの輸入食品申告、シンガポールSFAの届出は、原産国にかかわらず適用されます。
→ つまり、輸出時の規制対応は「品質の上に積む追加業務」ではなく、事業の前提インフラとして設計する必要があります。
しかし、抹茶の規制対応は想像以上に難しい

規制対応の必要性は理解していても、実務に落とし込むと壁が一気に高くなります。抹茶という商材ならではの特殊事情が、適合性のハードルを引き上げているからです。
国ごとに異なるMRL・添加物・表示要件
抹茶を含む茶類のMRL(残留農薬基準)は、EU・米国・日本・台湾・中国でそれぞれ異なる数値が設定されています。さらに、同じ農薬でも国によって基準値が10倍以上違うことも珍しくありません。
表示要件も同様で、栄養成分表示・原産地表示・アレルゲン表示・有機認証ロゴの表記ルールは、国ごとに完全に独立しています。一括で「英語ラベルを作れば終わり」という商品は存在しません。
同じ「日本産」でも産地・茶園で残留基準が変わる
抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)は、宇治・静岡・鹿児島・八女・西尾など産地ごとに栽培体系が異なります。さらに、同じ産地でも茶園ごとに使用農薬・防除暦が違うため、同じ「日本産抹茶」でも輸出可否は茶園単位で変わります。
「いつもの抹茶を出荷したらEUで止められた」というケースの多くは、原料産地の切り替えが現場で起きていたのに書類管理に反映されていなかったことが原因です。
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書類1枚足りないだけでコンテナが止まる
輸入通関では、原産地証明・植物検疫証明書・分析証明(COA)・インボイス・パッキングリストのどれか1点でも記載に不備があるとリリースされません。コンテナが港で止まれば、1日あたりの保管料(デマレージ)が発生し、商品によっては鮮度・品質クレームに発展します。
→ つまり、抹茶輸出は「茶葉のビジネス」であると同時に「ドキュメントのビジネス」です。書類設計を後回しにすると、最後に大きく跳ね返ります。
主要市場別の規制と必要書類【比較表】

ここでは、抹茶を扱うバイヤーが押さえるべき6つの主要市場について、規制の構造と必要書類を整理します。各市場で求められるドキュメントは、それぞれの食品法・農薬規制・通関制度に紐づいています。
EU/UK|世界で最も厳格なMRLと有機認証
EUはEU Pesticides Databaseに基づくMRLが世界で最も厳しい水準で運用されています。茶類は乾燥状態で検査されるため、残留農薬の濃縮係数が事実上適用される点に注意が必要です。有機表示にはEU Organic認証(JASとの同等性協定あり)が必要で、英国(UK)はBrexit以降、独自のGB Organicスキームに分かれています。
米国(USA)|FDA登録とFSMA、加州プロップ65
米国向けにはFDA Food Facility Registration(食品施設登録)とFSMA(食品安全強化法)に基づく予防管理、輸入時にはPrior Notice(事前通知)が必要です。さらに、カリフォルニア州プロップ65は重金属や特定化学物質に対して州独自の警告表示を求めるため、加州出荷分は別建てで対応が必要です。
台湾(TFDA)|輸入食品の事前申告と農薬基準
ここはTFDA(衛生福利部食品薬物管理署)が所管し、輸入食品は食品輸入查驗制度の対象です。台湾独自のMRLが設定されている農薬もあるため、EU基準・日本基準のクリアだけでは不十分なケースがあります。
シンガポール(SFA)|ASEANのハブ、表示と添加物に独自ルール
シンガポールはSFA(Singapore Food Agency)が一元管理し、輸入食品の事業者登録と製品ごとの届出が必要です。栄養表示や添加物リストはASEAN域内でもシンガポール独自の基準があり、ASEAN展開のハブとして使う場合は最初の関門になります。
UAE(中東)|ハラル認証と表示のアラビア語化
UAEを含む湾岸諸国(GCC)は、GCC Standardization Organization(GSO)が共通基準を運用しています。抹茶は基本的に植物性食品ですが、ホテル・カフェ・小売チャネルではハラル認証が事実上の調達条件になることが多く、ラベルのアラビア語併記も必須です。
中国|GACC登録とラベル中国語化、独自MRL
中国向けはGACC(中国海関総署)への海外製造企業登録(CIFER)が必要で、登録番号がない施設からは輸入できません。GB(国家標準)独自のMRLや添加物基準があり、中文ラベルの貼付も通関時に厳格にチェックされます。
📊 主要市場別 規制・必要書類 比較表
| 市場 | 主要な規制 | 必須書類(代表例) | つまずきやすいポイント |
|---|---|---|---|
| EU/UK | EU MRL / EU Organic / 一般食品法 | COA・残留農薬検査結果・有機証明・原産地証明 | 世界最厳のMRL、UK独自スキーム |
| 米国 | FDA登録 / FSMA / Prior Notice | FDA登録番号・PCQI関連書類・COA | 加州プロップ65、サプライヤー検証 |
| 台湾 | TFDA輸入查驗 / 台湾独自MRL | 輸入申告書・分析証明・原産地証明 | 日本基準クリアだけでは不足 |
| シンガポール | SFA事業者登録 / 製品届出 | 事業者登録・成分表・栄養成分 | 表示・添加物の独自ルール |
| UAE | GSO規格 / 表示・ハラル | ハラル証明・アラビア語ラベル・COA | ホテル・小売はハラル必須が多い |
| 中国 | GACC登録(CIFER) / GB基準 | GACC登録番号・中文ラベル・検疫証明 | 登録なしの工場からは輸入不可 |
→ 同じ「日本産抹茶」でも、どこに売るかによって必要書類のセットは全く違います。市場を決めずに調達を始めると、ほぼ確実に書類不足で詰みます。
失敗するバイヤーが踏む5つの落とし穴

抹茶輸出のトラブルは、現場で繰り返される典型的な5つのパターンに集約されます。逆に言えば、この5つを避けるだけで重大事故の大半は防げます。
① MRL違反でリコール|「日本基準OK=EU基準OK」と誤解
もっとも多いのが、日本国内のポジティブリスト基準だけを見て輸出を進めてしまうパターンです。EUは特定農薬で日本より厳しい基準を運用しており、日本では合法な抹茶がEUでは即リコールになり得ます。
② 「有機JAS=EU Organic」と思い込む
有機JASとEU Organicは、同等性協定(equivalence)に基づき相互承認されていますが、製品ラベル・流通形態・トレーサビリティの要件は別建てです。「有機JASを持っているから自動的にEUでオーガニック表示できる」という認識は危険です。
③ 検疫書類・ラベル翻訳の小さなミス
植物検疫証明書(Phytosanitary Certificate)、原産地証明書、ラベル翻訳。これらの表記ゆれ・桁違い・スペルミスは、通関で容赦なく止められます。社内チェックだけでなく、現地の通関業者によるダブルチェックが必須です。
④ LOT管理の欠落で「どの茶園か特定できない」
有事の際にもっとも怖いのが、「どの茶園・どの茶期のロットか」を特定できない事態です。リコールが必要な範囲を絞れず、結果として全LOT回収に発展します。LOT番号と原料茶園の紐付けは、調達契約の段階で確定させる必要があります。
⑤ 表示言語・通貨単位・栄養成分のローカライズ漏れ
UAEならアラビア語、中国なら中文、ロシアならキリル文字、ブラジルならポルトガル語。表示言語の併記漏れは、品質と関係なく即不適合です。栄養成分の単位(kcal/kJ)や、有機ロゴの位置・色まで、現地ルールに沿った設計が求められます。
→ つまり、抹茶輸出の事故は「悪い抹茶を出した」のではなく「良い抹茶を悪い書類で出した」から起きるのです。
賢いバイヤーはサプライヤーをどう選ぶか

規制対応で勝つバイヤーは、サプライヤー選定の段階で勝負を決めています。価格や産地名だけで選ばず、次の5つの軸で評価することが標準です。
① ロットごとにCOA(分析証明)を発行できるか
COAには、残留農薬・重金属・微生物・水分・色価・粒度などが含まれます。重要なのは「年に1回の代表分析」ではなく、出荷ロットごとに発行できる体制を持っているかどうかです。EU・米国の大手バイヤーはほぼ例外なくロット単位COAを要求します。
② 各国MRLに対応した検査メニューを揃えているか
抹茶向けの残留農薬検査は、200〜400成分の多成分一斉分析が一般的です。重要なのは項目数ではなく、輸出先のMRLリストを満たすパッケージになっているかです。「EU向けなのに日本基準のメニューしかない」検査では意味がありません。
③ 茶園〜出荷までのトレーサビリティ
抹茶は茶園 → 製茶工場(碾茶) → 仕上げ工場(石臼挽き) → 充填 → 出荷という多段工程を経ます。各工程でLOT番号が紐づき、遡及できるトレーサビリティを持っているかは、有事対応の速度を決定づけます。
④ 必要書類の発行リードタイム
「来月の船積みに間に合いますか」という問いに、具体的な日数で答えられるサプライヤーかどうかは決定的な指標です。COA・原産地証明・有機証明の発行リードタイムを、契約前に必ず確認してください。
⑤ 有事の対応速度と多言語コミュニケーション
規制違反疑義・通関停止・現地クレームが発生したとき、英語(または現地語)で24〜48時間以内に応答できる体制を持っているかは死活的です。日本語対応のみのサプライヤーでは、海外バイヤーのスピードに追いつけません。
水際で止まらないための調達フロー【7ステップ】

規制対応を後付けにすると、必ずどこかで詰まります。新規にバイヤー・OEMとして抹茶を扱う場合、次の7ステップで進めるのが安全です。
Step1|販売地域と用途を最初に確定する
「とりあえず良い抹茶を仕入れる」は最大のNG行動です。まずどの国で、どのチャネルで、どのカテゴリ(ラテ/ベーカリー/ボトル飲料/OEM)に使うかを最初に確定し、それに紐づく規制要件を逆算します。
Step2|サンプル評価を「品質×規制」の2軸で行う
次にサンプル評価は、官能評価だけでなく、その地域に必要なCOAをサンプル時点で出してもらうのがプロのやり方です。本発注後に「実は基準を満たさない」と判明する事故を防げます。
Step3|書類セットを事前に確定する
そして必要書類のリストを「契約前」に確定します。COA、有機証明、原産地証明、植物検疫、ハラル、ラベル原稿、商品仕様書(Spec Sheet)など、誰がいつ発行するかを一覧化しておきます。
Step4|試験輸入で物流・通関・現地表示を検証する
さらに本発注前に、少量(数十kg〜数百kg)の試験輸入を行います。船積み・通関・倉庫保管・現地表示シールの貼り替えまで、ワークフロー全体を一度通すことで、本格輸入時のリスクが見えます。
Step5|本発注と継続LOT検査を契約に組み込む
また本発注の段階で、「全LOTにCOAを添付」「年X回のサプライヤー監査」などを契約条項に明記します。口頭ベースの取り決めは有事に必ず崩れます。
Step6|現地販売後のフィードバックループを作る
加えて、現地での消費者クレーム、品質クレーム、棚替え情報をサプライヤーに共有し、産地・ブレンドを継続的に微調整します。これは1〜2年単位のブランド成長に直結します。
Step7|中長期で「規制適合性」をブランド資産に育てる
最後に規制対応は単なるコストではなく、ブランドの差別化資産です。「EU MRL完全対応」「ハラル取得済」「有機JAS+EU Organic」といった事実を、パッケージとマーケティングに組み込めば、価格競争から抜け出すレバーになります。
→ アルテムであれば、Step1〜Step7まで一貫して伴走できます。
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まとめ|規制対応は「リスク回避」ではなくブランド資産
結論として、抹茶の海外市場は今後も拡大しますが、その勝者は「うまく作れた人」ではなく「うまく届けられた人」です。本記事の要点を、最後にもう一度整理します。
- 抹茶輸出はもはや「品質競争」から「適合性競争」のフェーズに入った
- 主要市場別にMRL・FDA・TFDA・SFA・GACCなど、要求書類が大きく異なる
- 典型的な失敗は5つの落とし穴(MRL誤解/有機誤解/翻訳ミス/LOT管理欠落/表示ローカライズ漏れ)
- サプライヤー選定ではロットCOA・各国MRL対応・トレーサビリティ・書類リードタイム・有事対応の5軸を見る
- 規制適合性は長期ブランドの差別化資産に変えられる
抹茶輸出ビジネスを「単発の輸出案件」ではなく「数年単位で勝つブランド事業」に育てたいバイヤーにとって、規制対応の設計は最初に踏むべき投資です。



